

大邸宅が安価で売り出されていた。喜んで手付金を払ったのだが……
これはしばらく前にアメリカのカリフォルニア州で起きたできごとです。
そのころ、私の両親は家探しに励んでいました。当時、伸び盛りだった私と兄弟を育てるために、より大きな家に引っ越すことにしたのです。両親は住宅を購入するために、かなりの額を貯金していました。
幸いなことに、インターネットで調べた結果、とても大きな家が見つかりました。その家は私たちが通っていた学校の近くにあり、格安な値段がつけられていました。
ただ、その家にはおかしな点がいくつかありました。住宅街に建てられておらず、人里離れた辺ぴなところに位置していたのです。でも、私は子供だったので、そんなことはちっとも気になりませんでした。
当時住んでいた家からその家までは、高速を通ると、車でわずか10分の距離でした。ある日、両親は私たちをその家につれていってくれました。
初めてその家を目にした時、「これは事実上お屋敷だ」と思ったことをハッキリ覚えています。屋根は赤色で、たくさんの窓がありました。家の中には執事用の部屋さえありました。天井からはシャンデリアがぶら下げられており、居間は驚くほど広くて暖炉が備え付けられていました。話がうますぎるような気さえしました。
両親は手付金を払うことを申し出ました(額はハッキリ覚えていません)。
もう一つ奇妙だと思ったことがあります。不動産業者の話によると、この家に興味を持ったのは私たちが初めてだというのです。なぜか誰一人としてこの家を見に来なかったのです。
その時、家の所有者は別の街にいて、両親と話ができなかったので、不動産業者は一週間後にまた来るよう提案しました。
自宅に向かう車の中で、家族全員が大喜びだったことを覚えています。みんなその家について話さずにはいられませんでした。私は友達にもこのことを話したのですが、どの子も私の幸運を喜んでくれました。それは私の人生の中で本当に幸せなひと時でした。
一週間後に私たちは愛犬をつれて、再びその家に向かいました。前回と同じように、カーナビを頼りに高速を走りました。最終的に私たちは家が建っていた場所にたどりつきました。
ところが……家はありませんでした。そこにあったのはだだっ広い空き地だけだったのです。私たちは車に乗って野原中をくまなく探し回ったのですが、文字通りそこには何もありませんでした。カーナビやグーグル・マップで再度確かめたのですが、家は見つかりませんでした。
そんなわけで、両親は不動産業者に連絡しました。担当の女性はとても混乱しているようでした。前回と同じ不動産業者に電話し、家について尋ねたのですが、彼女は「その地域で家を売ったことはありません」と言うばかりでした。実のところ、彼女はバージニア州(アメリカ東部に位置し、カリフォルニア州との間の距離は約4,263キロメートル)を本拠地にしていたので、遠く離れたカリフォルニアの家を担当するわけがありませんでした。
父は前回訪れた時に撮った写真を見せながら家について説明し、不動産業者はコンピュータのデータベースで調べてくれたのですが、結局その家は出てきませんでした。
なぜか家は完全に消滅してしまったのです。私たちは混乱しきった状態で家路につきました。帰宅後、両親が銀行口座を調べてみたところ、支払ったはずの手付金は口座に戻っていました。ダメ押し的にグーグル・アースで調べてみたのですが、やはり家は見つかりませんでした。あの日何が起きたのか、いまだに答えが見つかりません。