独り暮らしの老婦人が自宅のバスルームにいたとき、突然見知らぬ少女が部屋に入ってきて……
これはイギリスの男性、Yさんの体験談です。
僕がまだ子供だったころ、ロンドン北部にある街・ハイゲートに住んでいました。隣人はアレン夫人でした。資産家の家庭に生まれ育った彼女は、小柄で物静かな老婦人。3人の夫に先立たれ、独りで暮らしていました。
僕の父はアレン夫人のために時々雑用をしてあげていました。というのも、父はDIYが得意だったからです。それに頼まれたら嫌と言えない性分だったのです。
6月後半のある夕方、アレン夫人が我が家の扉をノックしてきました。ドアを開けると顔面蒼白の夫人が戸口に立っていました。「パット(父の愛称)はいる?」と尋ねられたので、彼女を招き入れ、父を呼びに行きました。「うちに来てほしい」と請われた父は、そのまま夫人の家へ。
父はおよそ30分後に戻ってきて、アレン夫人がなぜあんなにも動揺していたのかを話して聞かせてくれました。夫人が自宅の階下のバスルームを使っていた時、青いドレスを着た5~6歳くらいの女の子が部屋に入ってきたといいます。少女はびっくりしたように夫人を見て、謝り、走ってバスルームから出ていきました。その際、「ママ、お客さんが来たのなら、なぜそう言ってくれなかったの?」と叫んだといいます。
なぜアレン夫人は動揺したのか? 彼女がまだ幼かったころ、バスルームに入って、そこに年配の女性がいたのを見て驚いたことを覚えていたからです。
80年前にバスルームで見た女性が年をとった自分自身で、その晩、部屋に入ってきたのが幼いころの自分自身……夫人はそう結論づけ、父の考えを聞こうとしたのです。ポカポカ陽気で頭が少しおかしくなっていたのでしょうか? それとも単なる記憶違い?
父はこの話を信じました。なぜなら夫人は空想にふけるような人ではなかったから。80年越しに、年老いた自分自身と、少女だったころの自分自身を見たということです。というか、少なくともアレン夫人はそう信じていました。