2人の子供が野球場に行くために森の中を歩いていたら、見慣れない光景に出くわして……
1920年代初頭。ある日曜日の午後、アメリカ・アーカンソー州にある田舎町・フラックトンは静まり返っていた。みんな野球の試合を観戦するために出かけてしまったのだ。
この町に住む少年・ロビーと少女・アンは近道を通って野球場に行くことにした。松林の中を歩いていた2人は、これまで見たことのない小川を目にした。一瞬戸惑った2人だったが、ひるむことなく手を取り合って小川を渡り、向こう岸に着いた。そして2人は奇妙きてれつな風景を目にすることになった。
見慣れた森の風景はもはやそこになかった。雑草の生い茂った下草や、節くれだった松の木、悪臭を放つヒヨドリバナ(アメリカ南西部に見られるキク科の多年草の雑草)、そしてチョウセンアサガオは消え失せていた。また、つい先ほどまで響いていたスズメのチュンチュンという鳴き声や、アオカケスのけたたましい鳴き声も聞こえなくなっていた。
ロビーとアンは、奇妙な静けさに包まれた森の中を、手をつないで歩いていった。すべての植物が見慣れない種に代わっていた。とりわけシダは沼地でよく見かけるものより何十倍も大きくなっていた。夢見心地のけだるさを感じながら、2人は原生林の中を歩いていった。
やがて小高い丘に到着。丘の上から遠くに野球場と友人たちの姿が見えた。試合の音や観衆の歓声は聞こえたが、その音量は弱々しかった。それでも2人は腰を下ろして、試合を観戦することにした。
試合が終わったので、ロビーとアンは立ち上がり、来た道を引き返していった。謎めいた小川を渡り、振り返ると、夢のような世界は消えていた。
果たして2人はどんな世界を訪れたのだろう? 巨大なシダや見慣れない植物が生えていたということから、現在から約3億年前の石炭紀の森にタイムスリップした可能性が考えられる。この時代には酸素濃度が30%くらいあったので、植物は巨大なサイズに成長した。だが、その一方で、原生林に身を置きながら野球の試合を観戦したということから、二つの時代が広大な時の隔たりを越えて融合したのかもしれない。