濃霧が出た夜に

真夜中に森の中の道をドライブしていた男性が体験した不気味なできごととは……?

これはアメリカの男性・Nさんの体験談です。

ある夜、ニューイングランド地方の田舎をドライブしていた。バーモント州とマサチューセッツ州の境付近で、どちらの州だったかは覚えていない。

夜遅かった……いや、遅かったというよりはむしろ早朝。霧、それも濃い霧が出ていた。映画『サイレントヒル』に出てくるような濃霧。ホラー映画の冒頭で殺される愚かな登場人物のように、俺は裏道を運転していた。霧のためハイビームが使えない(ハイビームは霧の中で光が乱反射し、かえって視界が悪くなるため、ロービームで走行するのが安全)。そうこうしているうちにヘッドライトが消えた。

何もない辺ぴな場所。人家や街を見なくなってから久しかった。やがて車が異音を立て始め、エンジンチェックランプが点灯。こうなったら車を停めるしかない。非常に不気味。勇気を振り絞り車外に出て、エンジンを見てみた。電子部品だったら直せるが、エンジンは直せない。そのとき俺にできたことは、すべての部品を締め直すことだけだった。

車のエンジンはかからなくなった。暗闇の中、なす術もなく呆然とする俺。当然、携帯電話も圏外。まんまホラー映画の世界。でも俺は道路をうろうろするほどバカじゃない。シートを倒して、日の出まで数時間仮眠をとることにした。

目が覚めると、日が昇り始め、霧が晴れてきた。俺は田舎町の目抜き通りにいた。映画『サイコ』を思わせる、不気味な屋敷の前に車を停めていた。あたり一面、住宅街。眠る前は確かに森の中にいたのに!

50メートルほど先にガソリンスタンドがあった。そこに歩いて行き、店員(見た目は全く普通)に話しかけた。彼は車を見に来てくれてた。エンジンをかけてみるように言われたので、キーを回したら、エンジンはすぐにかかった。しかも……ヘッドライトは両方とも点灯していた。

車を走らせたが、田舎町の名前は分からずじまい。地図でも見つけられなかった。まるで、ホラーな展開にならなかったホラー映画の大がかりなセットの中にいるような気分だった。