『ドクター・フー:73ヤード』解説(ネタバレ)

『ドクター・フー』シーズン 1 第 4 話『 73 ヤード』で、ミリー・ギブソン演じるルビー・サンデーは、ドクター (シュティ・ガトワ) のいない別のタイムラインに移動し、不気味な老女につきまとわれることになる。この老女とルビーの間の距離は常に73ヤードに保たれており、ルビーは決して老女に接近することができない。

妖精の輪とは?

エピソードの冒頭で、ドクターとルビーはイギリス・ウェールズ州にやってくる。崖の上を歩いていたドクターは奇妙な輪をうっかり踏み、それを壊してしまう。この輪は、綿、お守り、花、鳥の頭蓋骨、巻物で構成されていた。ルビーは巻物を取り上げて、そこに書かれたメッセージを音読し、突然自分が一人ぼっちになっていることに気づく。しかも、正体不明の老女が73ヤード離れたところに出現、ルビーに何事か語りかけるが、何を言おうとしているのか分からない。


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ドクターが失踪し、ターディス(時空間を移動できる乗り物)にも入れなくなったルビーは、手がかりを求めて近くのパブに足を運ぶ。パブにいた地元の常連客たちは、ルビーが発見した輪は「妖精の輪」と呼ばれていると説明する。イギリスの民間伝承によると、そのような輪に足を踏み入れた者は、輪を作った妖精を怒らせ、罰として呪いを受けると言われている。呪いの内容についてはさまざまな説がある。永遠に妖精の輪の中に閉じ込められるという説もあれば、妖精の世界に連れていかれ、現世で行方不明になるとも言われている。不運に見舞われるか、早死にするという説もある。

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なぜ老女に会った人々はルビーを嫌悪するようになったのか?

ルビーは「妖精の輪」が壊れた瞬間に別のタイムラインに運ばれたようだ。この時間軸に入ったルビーは、ドクターをなくしただけでなく、家族までをも失ってしまう。ルビーを実の娘のようにかわいがっていた里親のカーラ(ミシェル・グリーニッジ)は、老女と話をしたとたん、態度が急変、激しく嫌悪するようになり、アパートの鍵を替えてルビーを遮断、話をすることすら拒否するようになる。

それからおよそ 1 年後、UNIT(ユニット:悪意のあるエイリアンからイギリスを守る目的で設立された架空の政府機関)の局長であるケイト・スチュアート(ジェマ・レッドグレイヴ)がルビーに助けの手を差し伸べる。ケイトはこのタイムラインがルビーの人生体験に沿って展開していることに気づいていた。ケイトを初めとしたユニットの局員たちは超自然現象から影響を受けないよう日頃から訓練に励んでいるので、老女に影響されることはないと思われた。これで一安心と思いきや、老女と会話を交わしたとたん、全員がルビーが見捨て、立ち去ってしまう!

ルビーが妖精の輪の中で読んだ巻物には「マッド・ジャックよ、安らかに眠れ」と書かれていた。「マッド・ジャック」は新進政治家、ロジャー・アプ・グウィリアム(アナイリン・バーナード)の子供時代のあだ名。エピソードの冒頭でドクターは、グウィリアムが将来イギリスの首相に就任し、核戦争を起こしそうになると警告した。妖精の輪はグウィリアムの力を押さえつける目的で作られたのだ。だが、妖精の輪が壊れたことによって、危険な政治家がイギリス首相に就任し、核戦争を引き起こすタイムラインができてしまった。彼の台頭を阻止して妖精の輪の目的を果たすことがルビーの使命だったのだ。


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かくしてルビーはグウィリアムの支持者を装って支援団体に入り、彼を倒す機会をうかがうようになる。長期にわたり辛抱強く待った末に、ついにその時がやってくる。ルビーが携帯の測定機能を使ってグウィリアムから 73 ヤード離れた位置に身を置くや、老女が出現、グウィリアムは悲鳴を上げて逃げ出し、政界から引退する。

それから長い年月が経ち、年老いて病院の床に伏したルビーは、ついに老女を 73 ヤードより近い距離で見る。老女は年老いたルビーに他ならなかったのだ! その後、ルビーは息を引き取り、彼女の魂は自分のタイムラインに沿って、ターディスがウェールズの海岸に到着した瞬間までさかのぼり、妖精の輪に足を踏み入れないようドクターに警告しようとする。か弱い声にもかかわらず、ルビーは若い自分とつながり、ドクターが輪を壊すのを回避することに成功。これにより、ドクターが姿を消したタイムラインは即座に消去され、年老いたルビーもまた姿を消す。

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かくしてルビーは呪われたタイムラインから解放された。しかし、「未来の記憶」はルビーの潜在意識に残っていたようだ。年上のルビーがウェールズの海岸に戻ったとき、若いルビーは「ウェールズに3回行ったことがある」とドクターに告げる。これは、エピソードの冒頭で初めてこの場面が展開したとき、ルビーがウェールズに2回しか行ったことがないとドクターに告げたときとは異なる。

年上のルビーが若いルビーをあえて独りぼっちにしたことは、ルビーが全力を挙げてグウィリアムを倒し、ループを完了するよう導くための必要悪だったのだろう。家族や友人に囲まれ満ち足りた人生を送っていたら、政治に干渉する気にならないだろうから。

老女は人々に何と言ったのか? 73の数字には意味があるのか?

それでは、年老いたルビーは人々を若いルビーから遠ざけるためにどんな言葉をささやいたのか? これについては明らかにされていない。『ドクター・フー』の製作総指揮者であるラッセル・T・デイヴィスはこの件について次のように語っている。

「答えは永遠に謎のままです。老女が何を言ったかを明らかにするつもりはありません。母親が娘との絆を断ち切るほどひどい言葉とは何だったのか? この疑問について考えるか否かはあなた次第です。」

73という数字には意味があるのだろうか? この疑問には明確な答えが出されている。デイヴィスが言うには、73ヤードという距離は、遠くに人物がいることは分かっても、顔の特徴はぼんやりとしか見えない完璧な距離とのことである。また、グウィリアムはサッカー競技場でルビーによって政治生命を絶たれたが、彼のそばに老女を出現させるためには、彼から73ヤード離れなければならない。サッカー場の長さは73ヤードを上回るので、この目的を達せられるということだ。なお、一部のファンが73ヤードをメートルに換算したところ、66メートルになった。聖書において666は不吉な獣の数字とされているため、このことと関係があるのではないかと推測するファンもいたが、これは偶然の一致に過ぎなかったようだ。

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