エドガー・アラン・ポーの小説が現実化

小説の中で描かれた架空のできごとが40年後に現実化した!

『黒猫』や『アッシャー家の崩壊』などの作品で有名なアメリカの作家エドガー・アラン・ポーは、1838年に、『ナンタケット島のアーサー・ゴードン・ピムの物語』という冒険小説を出版した。これは、アーサー・ゴードン・ピムという名の青年が捕鯨船にこっそり乗り込み、数々の冒険を繰り広げるという物語。この小説の中で、船が難破し、4人の船員が救命ボートに乗って避難する場面がある。

ポオ小説全集 2 (創元推理文庫 522-2)

あてどもなく漂流するうちに、飢死の危機に直面した4人は、わらを使ってくじ引きし、短いわらを抜いた人の肉を残りの3人が食べ、飢えをしのぐことになった。リチャード・パーカーという名の男が貧乏くじを引いた。彼は直ちに刺殺され、3人は彼の肉を食べることで命を取り留めた。

それから40年後、そんな架空のできごとが驚くほど正確に再現されることになった。

1884年7月5日、イギリスからオーストラリアに向かっていたイギリス船籍のヨット、ミニョネット号は、喜望峰から約1800キロメートル離れた海上で遭難した。船長と2人の船員、そして給仕の少年リチャード・パーカー(17歳)の合計4人の乗組員は、救命艇に避難することに成功したが、持ち込めた食料はカブの缶詰2個のみで、水も不足していた。

雨水を集めたり、漂流の5日目に捕獲したウミガメで飢えをしのいだが、18日目には食料と水が完全に底を尽いた。19日目、船長はくじ引きで誰か一人が犠牲になることを提案したが、船員の一人が反対し中止された。しかし、20日目に、家族のいない若い給仕リチャードが渇きのあまり海水を飲み、衰弱して立ち上がることが困難な状態になった。船長は彼を殺害し、血で渇きを癒した後、彼の遺体を残りの3人で食べて生き延びた。

そして3人はイギリスに帰りついた。当然のことながら3人はこの話を公にしなかった。にもかかわらず罪がばれ、3人は1884年に裁判にかけられることになった。

なぜばれてしまったのか?  当時、『ロンドン・サンデー・タイムズ』紙が「驚異の偶然」に関するコンテストを実施したのだ。このコンテストで優勝したのは12歳のナイジェル・パーカー。救命ボートの上で仲間に食べられた不運な給仕係は、ナイジェル・パーカーの曽祖父のいとこだったのである。

イギリス高等法院は謀殺罪として3人に死刑を宣告したが、世論はこの判決を不服とし、無罪が妥当であるとの意見が多数を占めたため、当時の国家元首であったヴィクトリア女王は特赦を与え、禁固6か月に減刑した。


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