別の時間軸から来た男
これは一種の記憶喪失か! そうでなかったら、別の時間軸から来た男に会ったとしか考えられない。
数年前、僕は大学の新入生で、初めての授業を受けようとしていた。科目は「世界の宗教」。講義が始まり、15分ほど経ったとき、一人の男が遅れて講堂に入ってきて、僕の隣に座った。
休み時間になったとき、その男は僕に目をやり、満面の笑みを浮かべながら「久しぶり! 元気でやってる?」と話しかけてきた。だが、彼に会った記憶は少しもなかった。彼の顔にも声にも思い当たるところはなし。だが、僕は出会った人をなるたけ忘れないよう心がけているのだ。たとえ縁が薄い人でも……。
そこで僕は、彼が誰で、どうやって僕と知り合ったのかを尋ねた。氏名を教えてくれたのだが、それでもピンとこない。彼の言うことには、僕たちは私立学校で知り合ったのだそうだ。僕はその学校でフォトショップ(画像編集)の授業を受けたという。また彼は、その他の生徒の名前も教えてくれた。最後に彼は、二人でハロウィンパーティーに参加したときのことを語った。
だが、僕は私立学校に通ったことは一度もないのだ。フォトショップの授業を受けたこともない。6人以上の親友が顔を見せたハロウィンパーティーに参加した覚えもない。
きっと彼は僕のことを誰かと勘違いしているに違いない。そう確信した。
ところが、次に思いがけない展開があった。彼は、僕がずっと前に使っていたニックネームを知っていたのだ。そればかりか、何年も前に僕がしていた「イってる」ヘアスタイルを正確に描写してのけた!
な・ん・た・る・コ・ト!